立役の衣裳

歌舞伎では、男性の役のことを立役(たちやく)と呼びます。衣裳は、シャツとジャケットとズボンと同じように、いくつかのアイテムを組み合わせて構成されます。衣裳の主なアイテムとしてはまず「着物」、そしてズボンのように腰から下にはく「袴」、上着のような「肩衣」「羽織」があります。「着物」はそれだけでも外出着になりますが、「袴」をつけるほうが一ランク上がって、正装に近くなります。「袴」に「肩衣」を付ける「裃(かみしも)」は武家の正装、羽織袴は町人の正装になります。『熊谷陣屋』の熊谷次郎直実、『源平盛衰記』の斎藤別当実盛など、金糸銀糸や色糸を織り交ぜた「織物(おりもの)」の豪華な衣裳は、歌舞伎の時代物を代表する衣裳です。羽織袴や長裃は江戸時代の実際の扮装ですが、豪華な織物の着用は江戸時代初期に禁止されており、派手な織物の裃などは架空の風俗です。
歌舞伎の衣裳は何枚も重ねて着るなど大掛かりになるものもあるので、見えない部分を省略したり、一枚しか着ていないのに、何枚も着ているように見せたりするなど、独特の工夫をしています。これは俳優の負担の軽減にもなります。(田村民子)

【写真】
『源平布引滝』斎藤別当実盛(尾上菊五郎) 平成23年12月南座

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