歌舞伎の衣裳は非常に豪華で、バリエーションも豊かです。華やかで斬新なデザインの花魁(おいらん)の裲襠(うちかけ)、威厳と品格を表す武士の裃(かみしも)、すっきりと粋な町人の半纏(はんてん)や浴衣など、衣裳を見るだけでもワクワクします。
歌舞伎は17世紀初頭に生まれ、江戸時代に育った芸能ですので、衣裳も江戸時代の服装が基本となっています。しかし、あくまで「お芝居」ですので、必ずしも江戸時代の一般の服飾をそのまま再現しているわけではありませんが、着物の着方や、着たときのしぐさやふるまいも含めて、生きた形で服飾風俗を見る事ができるのも歌舞伎のお楽しみのひとつです。
歌舞伎の衣裳は、舞台映えを考慮して形をデフォルメしたり、俳優が動きやすいように形や縫製を工夫したりするなど、独自の進化をしています。また、普通では考えられないくらい原色を多く用いるなど、色使いも大胆です。「え!なにこれ?」というような非日常的でユニークな衣裳もたくさんあります。難しいことは抜きにして、感性で楽しんでみてください。
しかし、なんでも自由というわけではありません。歌舞伎の演技には「型」という決まり事がありますが、衣裳も同様です。この演目のこの役はこの衣裳、という風にだいたいの決まりがあります。つまり、俳優が自分の好みで自由に衣裳を選んでいるわけではなく、役柄ごとに約束事があり、それに従っているのです。また、同じ演目の同じ役であっても、芸の系統や俳優によって演じ方が異なる場合があるため、それに合わせて衣裳の色や柄が異なってくることもあります。衣裳の基本の約束事に慣れてきたら、そうした知識も仕入れて細部を見ると、よりいっそう楽しめます。(田村民子)
【写真】
『助六由縁江戸桜』三浦屋揚巻(坂東玉三郎) 平成21年12月南座