場(シチュエーション)

歌舞伎は、しばしば類型的な場(シチュエーション)にさまざまな趣向を加えて、多様な場面を作り上げてきました。能の「花」と「幽玄」の内面的・高踏的な美意識に対し、「好色」「色気」をもって現世を肯定してきた歌舞伎では、初期のころから男女の愛の駆け引きと交情の場面を繰り返し上演してきました。愛し合う男女の逢瀬を描く「濡れ場」(ラブシーン)、女が愛する男の髪を梳く「髪梳き」、「口説き」と「口舌(くぜつ=痴話げんか)」、そして遊女に入れあげた揚句に金に困り、みじめな境遇に堕ちた若殿を支えるために苦闘する忠臣一家の「世話場」と「愁嘆場」、女房娘を傾城勤めに出す「身売り」、女が愛する男のために心ならずも男に「愛想尽かし」「縁切り」、絶望した男が誤って女を殺す「殺し場」などなどがあります。時代物でも、権力を笠に着た敵役による「責め」「折檻」「いじめ」「草履打ち」、敵討物の「返り討ち」などがあり、おきまりの場面(シチュエーション)のさまざまなバリエーションが、手を変え品を変え、繰り返し上演されてきました。(浅原恒男)

  1. 用語
  2. 歌舞伎の演技・演出
  3. 場(シチュエーション)