せわばとしゅうたんば 世話場と愁嘆場

庶民の家を表す大道具はたいてい共通のしつらえで、上手に粗末な障子屋体、正面の上が仏壇か神棚、下が押入れ、その左手に奥に通じる納戸口があって地味な暖簾がかかっていて、その下手に土壁。そして下手に出入り口と格子戸がある。これを世話屋体といいます。芝居の中で複数の人物、例えば親子や夫婦、主従などが突然訪れた不幸な状況に涙を流す、あるいは手を取り合うなどして嘆き悲しむ局面を愁嘆場といいます。主な例では『仮名手本忠臣蔵』の六段目「勘平腹切の場」、『義経千本桜』の「すしや」などのいずれも幕切れ近く、死を目前にした主人公を囲んで、愁嘆場が繰り広げられます。曽我兄弟の家臣の鬼王新左衛門が貧しい中で兄弟を支えようと苦闘する「鬼王貧家」での「四百四病の病(やまい)より、貧ほど辛いものはないなぁ」という科白(せりふ)は誰知らぬ者がいないほどでした。歌舞伎界の通言で世話場といえば「貧乏」なことです。(金田栄一)

【写真】
『仮名手本忠臣蔵』六段目 [左から]早野勘平(尾上菊五郎)、母おかや(中村吉之丞) 平成19年2月歌舞伎座