歌舞伎の小道具

歌舞伎で使用される小道具は、種類も数も非常に多彩で、およそ600~1,000種類あるとされる。登場人物が手に持って出る扇や中啓などや、身につけている草履や下駄などの履物、冠などの被り物、鎧や刀などの武具など。また、舞台装置の一部としての家具や室内装飾品、ふとんや枕、蚊帳など。そのほか、食べ物、駕籠や輿といった乗物類。さらに、後見役が差し金で操作する鳥や蝶、俳優が中に入って操る馬や猪などの動物類と、切首(きりくび)と呼ばれる斬首された人間の頭部なども含まれる。
大道具と小道具との区別は、大まかな目安として、引っ越しで持っていけるものは小道具、持っていけないものは大道具とされている。『積恋雪関扉』で、小町桜の精が背景の大きな桜の木から花の枝を一本取って大伴黒主と戦う場面では、桜の大木は大道具、小町桜の精が手に取って使う枝は小道具である。
歌舞伎の小道具は、必ずしも本物そっくりに作られるとは限らず、誇張するために本物より大きかったり、その小道具を使う俳優が使いやすく作られていたりする。俳優の役作りの一端を担うので、その好みや注文に応え、また先人の知恵や新しい方法も活用しながら、さまざまな技術や工夫を重ねて作られている。(橋本弘毅)

【写真】
桜の枝を取って黒主と争う小町桜の精
『重戀雪関扉』傾城墨染実は小町桜の精(坂東玉三郎) 平成27年12月歌舞伎座

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