歌舞伎の特色の一つに化粧がある。おもに能楽では仮面を用い、仮面をつけない場合でも化粧はしない。歌舞伎は化粧によってさまざまな人物を表現する。特に地肌の色がその人物の役柄を示す。基本的に白い顔は善人や高貴な人で、白粉(おしろい)で顔一面を均一に塗ることから白塗り(しろぬり)という。日本には古来顔を白く塗る伝統がある。白は高貴な色であり、神に選ばれた者の証。また色白は美人の条件でもあり、日に当たって労働することのない上流階級という地位や身分を表していた。「白塗り」は、基本的に白の分量が多ければ多いほど、真っ白に近いほど、高貴であり、善の度合いが高い。ただし悪人でも高貴な人は白塗りである。一方、顔の色が茶色に近い肌色の人物は侍や町人や悪人であることをあらわす。これには砥の粉(とのこ)と呼ばれる粉が使われる。
もう一つの特色は赤の使い方である。口紅や頬紅のほか、目張り(めはり)と呼ばれる目元の化粧や隈取りにも赤を使用。「隈取り」は強い印象を与える化粧で、「紅隈(べにぐま)」の赤は、正義のヒーローの勇ましさ、血の滾(たぎ)りなどが表されている。黒は眉や目張り、立役の口などに使われ、顔のアクセントの要素に使われる。青は清々しさや清潔感という明るいイメージと、青ざめるなどの暗いイメージとがある。武士の月代(さかやき)や髭剃り跡にも青が使われ、男らしさや若さを印象づける一方で、藍隈(青い隈)は悪人などの隈取りに使われ、不気味な印象を与える。
このように白、赤、黒、青の四色を基本とする歌舞伎の化粧によって、登場人物の役柄がひと目でわかりやすくなっている。(阿部さとみ/浅原恒男)
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『伽羅先代萩』床下 荒獅子男之助(中村歌昇) 平成23年3月新橋演舞場