歌舞伎のかつら

歌舞伎は江戸時代をはじめ、さまざまな時代を舞台にした演目が多いため、俳優は着るものや髪の形など姿を大きく変身させる必要があります。そうした姿を「扮装」と呼びますが、その要素のひとつに「かつら」があります。

歌舞伎のかつらは、役ごとに細かな決まりがあり、千種類以上あるともいわれています。髪型は時代考証に沿っている部分もありますが、大胆にアレンジしたり、あるいは現実にはありえない破天荒な形を創造したりして、歌舞伎ならではの多様なヘアスタイルが生み出されました。

髪型は、役の年齢や身分、職業、性格などを表す役割もあり、たとえば歌舞伎を見慣れて、それらのサインがわかってくると、髪の形を見ることで「正義感の強い、壮年の男性」であるとか、「超人的な力を持った人」、「遊女のなかでも格の高い女性」という具合に、判断ができるようになってきます。ちょっと専門的になりますが、生え際の形にもさまざまな工夫が凝らされており、かつらを作るときに非常に神経を使って、その形が作られています。

歌舞伎のかつらは、作り置きはせず公演ごとに作られています。かつら師と呼ばれる専門の職人と、髪を結い上げる床山が分業で仕事をしており、うまく連携をしています。役によってかつらの形は決まっていますが、演じる俳優の家の芸風や個人の好みなどもあるため、演目と配役が決まったら、俳優とかつら師、床山の三者で打合せを行います。その後、かつら師が金属の土台の部分を作って、そこに毛を植え込む作業を行い、それを床山が受け取って役の髪型に結い上げていきます。
髪の素材は、主に人毛ですが、カラと呼ばれる張りのある毛(ヤクという動物の毛)を用いることもあります。(田村民子)

【写真】
『廓文章』夕霧のかつら

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