歌舞伎は初期のころは能狂言の上演形式を受け継ぎ、音楽も小鼓と大鼓と太鼓と笛の四拍子(しびょうし)によるものでした。しかし16世紀後半に渡来した三味線がやがて歌舞伎音楽の中心的地位を占めるに至ります。また、民間に流行したさまざまな雑芸や踊り、俗謡や民謡、祭文など、ありとあらゆる音楽を貪欲に取り込んできました。
歌舞伎では、実に豊かでバリエーションに富んだ音楽が使われます。舞踊における長唄囃子連中の出囃子(でばやし)、床(ゆか)や山台で演奏される浄瑠璃(じょうるり)、そして劇中に黒御簾で演奏される多種多様な唄と三味線と鳴物の果たす役割も重要です。これらの音楽が俳優の演技と渾然一体となって、祝祭的な舞台芸術を現出するのです。歌舞伎は音楽面が非常に豊かな総合芸術なのです。(浅原恒男)
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『勧進帳』[左から]亀井六郎(大谷友右衛門)、片岡八郎(市川高麗蔵)、武蔵坊弁慶(市川染五郎)、駿河次郎(澤村宗之助)、常陸坊海尊(松本錦吾)、源義経(中村吉右衛門) 平成26年11月歌舞伎座