父や兄あるいは主君が殺されてその敵を討つという仇討ちは、鎌倉・室町を経て江戸時代にはさらに庶民の関心を呼び、曽我兄弟を題材とした曽我物などが多くの芝居に取り入れられています。実例では敵を討つ側が逆に討たれてしまうという返り討ちも数多くありました。芝居の中でもさまざまな艱難辛苦や返り討ちの哀れな様子に観客もハラハラし、主要な見どころのひとつとなっています。また返り討ちする敵役も非情さと陰惨さが特徴的に描かれ、そこに悪の華を感じさせるという新たな役柄も文化文政期以降に登場します。『彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)』では武芸達者な姉・お園と共に挑んだ妹のお菊が返り討ちに遭い、『霊験亀山鉾(れいげんかめやまほこ)』では返り討ちする水右衛門の冷酷さこそが主要な見どころとなっています。(金田栄一)
【写真】
『敵討天下茶屋聚』[上から]東間三郎右衛門(松本幸四郎)、早瀬伊織(中村梅玉) 平成23年5月新橋演舞場
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『敵討天下茶屋聚』[上から]東間三郎右衛門(松本幸四郎)、早瀬伊織(中村梅玉) 平成23年5月新橋演舞場