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ぜんたいへいきのせかい 前太平記の世界

『前太平記』は江戸時代に書かれた一般向けの歴史書です。内容は平安時代、10世紀終わりから12世紀初初頭のおよそ200年間の、清和天皇の血を受け継ぐ源氏代々の功績や逸話を伝えるものです。「前太平記の世界」は大きく二系統に分かれます。第一が「頼光・四天王の世界」。これは源頼光(よりみつ、らいこう)と彼の家臣渡辺綱(わたなべのつな)、坂田金(公)時(さかたのきんとき)、碓井貞光(うすいのさだみつ)、卜部季武(うらべのすえたけ)の四天王と「独り武者」と呼ばれる平井保昌(ひらいのやすまさ)が活躍する物語です。なかでも頼光は理想的武将に描かれています。第二が「将門記の世界」で、こちらは10世紀中頃、現在の関東地方で朝廷へ反乱を起こし滅亡した平将門(たいらのまさかど)の遺児相馬良門(そうまのよしかど)と滝夜叉姫(たきやしゃひめ)の復讐物語です。頼光・四天王を巡る有名な伝説には、大江山の酒呑童子(しゅてんどうじ)退治や、葛城山の土蜘蛛退治、渡辺綱と茨木(いばらき)童子の対決などがあります。
現在でも上演されるものに『嫗山姥(こもちやまんば)』があります。主人公は遊女八重桐(やえぎり)とその元恋人の煙草屋源七(たばこやげんしち)実は坂田蔵人時行(さかたのくらんどときゆき)です。坂田蔵人は優男で、妹白菊が父の仇を討ったと知って面目なさに自害し、その魂が八重桐の胎内に入ると山姥となって山に入り、超人的な力を持つ怪童丸(かいどうまる)を産む。その子が成長して頼光に見出され、坂田金時になるというものです。山姥と金時の物語は常磐津舞踊『薪荷雪間の市川(たきぎおうゆきまのいちかわ)~山姥』にもあります。江戸の顔見世狂言には「前太平記の世界」が好んで上演されました。明治になって作られた松羽目物の『土蜘』もこの世界として描かれています。(安冨順)

【写真】
『嫗山姥』[左から]煙草屋源七実は坂田蔵人時行(中村橋之助)、荻野屋八重桐(中村扇雀) 平成28年8月歌舞伎座
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