主人公はツチグモの精。千筋の糸をシュシュ、シュシュと繰り出して日本を魔界にしようとする妖怪だ。旅の僧に化けたツチグモが英雄頼光の命を狙う!
能『土蜘蛛』に倣いながら、所々に散りばめられた歌舞伎のエッセンスがあざやかに匂い立ち、悪のオーラが格好いい!!
歌舞伎の高尚化を勢いよく進めた、明治時代の香りがする舞踊劇。
場面は源頼光の館。頼光の家来平井保昌が病中の頼光を見舞う。頼光の病は重く、薬も祈祷も効き目がなかったのが、近頃回復の兆しが見えて、保昌と対面し、病にかかった経緯を語る。それは恋人の許を訪れ、秋の夜長を過ごした朝帰りのこと。露に揺れる萩に見とれていると、朝風が冷たくぞっと身に沁み、悪寒発熱に見舞われて病の床についたのだという。
侍女の胡蝶が典薬の頭(朝廷または幕府で医薬を司るところ)から下された薬を持って来る。頼光の求めに応じ、胡蝶は都に近い紅葉の名所の様子を舞い描く。名高い高尾山の山紅葉の美しさ、愛宕山の素晴らしさ、小倉山の峰が夕日にきらめく風情、嵐山の紅葉が散り大井川を染める景色を品良く描写。やがて胡蝶は薬の準備にとりかかる。
頼光はにわかに苦しみを覚え、ふと気付くといつの間にか暗闇に男が一人佇んでいる。音もなく現れた男は比叡山の僧智籌だと名のり、頼光の病を治す祈祷をしに来たという。頼光の望みに応え、智籌は物語を始め、出家した身の上話から、あてどなく諸国を巡り、木や石の上に起き伏し、風雪に耐えるなど、厳しい自然環境の中での難行苦行のありさまを描き出す。
智籌が祈祷のために頼光に近づくと、影が灯火に怪しく映る。影は人間のかたちではない。それを太刀持が見咎めると灯火が消え、頼光が化物の仕業かと迫る。智籌は頼光の病は自分が術をかけたためだと言い、蜘蛛に因んだ古歌によそえて蜘蛛の精である正体をほのめかし、頼光に蜘蛛の糸を投げかけ、襲いかかる。
頼光は家宝の名剣膝丸を抜いて斬りつける。土蜘の精は数珠を口にあてて「畜生口」(口が大きく裂けたように開く瞬間を表す)という見得をし、異形の恐ろしさを見せるが、名剣の神々しい威力に叶わず、姿を闇に紛らわせて去っていく。駆けつけた保昌に頼光は、四天王の渡辺綱、坂田公時、卜部季武、碓井貞光と共々に土蜘の精を退治するよう命じる。
場面は頼光館の広い庭に変わり、土蜘退治に集められた従者らのユーモアあるシーンになる。臆病風に吹かれた従者が庭に祀られていた弓矢神である石神様に祈ろうと、巫女舞を奉納し、夫婦喧嘩を映した滑稽な踊りとなる。やがて神と見えたのは幼いお小姓の少年とわかる軽やかな展開となる。
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