くどき 口説き

義太夫狂言の中で、三味線の音や浄瑠璃に乗せて女性が激しい胸の内を切々と訴える場面を口説き(クドキ)といいます。くどきは元来、平曲(平家琵琶)や謡曲において恋慕や哀愁の感情を表わす箇所とされていたものです。概して歌舞伎では立役があくまでも中心となり女方はやや下がったところに位置しているものですが、この口説きの場面においては、女方が実に堂々と正面切って秘めた思いを吐露します。その恨みつらみを並べる女性に対して、受ける男性の方はどこか迷惑そうにじっと聞いているという光景がよくありますが、ここは女方の芸の見せ所であるだけに、持ち分としてしっかり演じ、相手役に受け渡すという意味合いもあります。時には「エエ お前はなア」などといった前置きが付けられますが、これはせりふを際立たせると同時に、場内を鎮めて観客の集中を促す効果も見せます。『義経千本桜』鮓屋のお里などが代表的です。
口説きは舞踊にも取り入れられ、ひとつの見せ場となりました。代表的なところでは『京鹿子娘道成寺』の「恋の手習い」など、重要な聴きどころ見どころを作り上げています。(金田栄一)

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妻から夫への口説き
『絵本太功記』十段目 [上から] 武智十兵衛光秀(市川團十郎)、光秀妻操(中村魁春) 平成23年4月新橋演舞場