しらなみもの 白浪物

「白浪」とは盗賊のことを指しますが、語源は中国の漢の時代、白波谷(はくはこく)に籠った盗賊集団白波賊の故事に由来しています。白浪物を得意としたのは幕末期の講釈師、松林伯円(しょうりんはくえん)でしたが、歌舞伎で白浪作者と呼ばれたのが河竹黙阿弥。黙阿弥は伯円の作品を舞台化しています。黙阿弥と提携し白浪役者といわれたのが四代目市川小團次です。二人の提携は『都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)』に端を発し、『鼠小僧』『三人吉三』『十六夜清心(いざよいせいしん)』、そして十三代目市村羽左衛門(後の五代目尾上菊五郎)の弁天小僧で『白浪五人男』のヒットを生みます。これらに登場する盗賊には極悪人はおらず、悪事は働いても義理人情に厚く、人間味あふれる魅力的な人物像が浮かび上がってきます。また黙阿弥の白浪物には七五調の心地よい名せりふが随所にちりばめられ、観客の目と耳を引き付けます。(金田栄一)

【写真】
『三人吉三巴白浪』[左から]お嬢吉三(尾上菊之助)、和尚吉三(尾上松緑)、お坊吉三(片岡愛之助) 平成21年11月新橋演舞場