行き場を失う十六夜・清心、手に手を取って心中するも死に損なっての生き別れ。ふとしたことから人を殺めた清心だが「しかし待てよ・・・金を取り殺したことを知ったのは、お月様と俺ばかり、一人殺すも千人殺すも、取られる首はたった一つ」と、ここが大きな別れ道、やがて踏み込む悪の道。思いがけぬ再会から強請に入った大店が、なんとまさかの大泥棒とは…。波乱万丈尽きぬ二人の身の上に、やがて因果は巡りくる。
鎌倉極楽寺の所化(しょけ)清心は、頼朝から寺へ寄進された三千両を盗んだ疑いを掛けられた上に、禁制を破って遊女・十六夜となじんだ女犯(にょぼん)の罪でついに寺を追放され、京へ上って再起をめざそうと、やって来たのは稲瀬川百本杭。そこで清心に一目逢おうと廓を抜け出し追ってきた十六夜と出会います。十六夜から清心の子を身籠り廓へ戻ることも出来ず死ぬしかないと明かされ、やがて心を決めた二人は手を取り合って川へ身を投げます。
川の中に浮かぶ白魚船、乗っているのは俳諧師の白蓮(はくれん)。船頭と言葉を交わすうち何やら網にかかった様子で引き揚げてみるとそれは人・・・いま飛び込んだばかりか、まだ息ある様子とよくよく見ればなんと白蓮もなじみの十六夜でした。白蓮は死なねばならぬと言い張る十六夜にわけを問い質しますが、十六夜は廓勤めがつらいからというばかり。白蓮はそれとなく察しやがて十六夜を身請けして自分が囲うという約束をします。その言葉に十六夜は、腹の子を産むまでは生きていようと、従う決心をするのでした。
一方、清心も漁師の子ゆえ水に慣れていて死にきれず、十六夜と腹の子に心を痛めながら川岸にたたずんでいます。そこへやって来た寺小姓の求女(もとめ)が腹の痛みに苦しみ、清心が胸をさすろうと懐へ入れたその手に触ったのが五十両。清心はそれを貸してくれろと無心し、もみ合ううち求女を殺してしまいます。うろたえる清心の耳にどこからか陽気な騒ぎ唄が聞こえます。「しかし待てよ・・・一人殺すも千人殺すも、取られる首はたった一つ」と俄かに心変わりした清心は足早に駆けてゆきます。殺した求女が十六夜の弟だったとは知る由もありません。
白蓮に請け出された十六夜は元の名のおさよとなって鎌倉初瀬小路(はせこうじ)の白蓮の妾宅に住み、父の佐五兵衛も引き取られています。しかし人が寝静まると位牌・数珠を出して回向を始めるのを白蓮に気付かれたので、ようやく清心との経緯を語り始め、さらに菩提のため尼法師となって諸国を巡るため袈裟まで用意していると告げると、その貞節に心入った白蓮は望み通り暇を与えます。おさよはその晩早速に剃髪し、すでに剃髪して死んだ弟(求女)の菩提を弔う心でいる父と共に旅に出るのでした。この時、父はまだ求女の死を告げていません。
鎌倉雪の下の白蓮本宅、そこへやって来たのは髪も伸びてむさくるしい風体のおさよ(元は十六夜)と鬼薊(おにあざみ)の清吉(元は清心)。実は旅に出たおさよは箱根山で悪者にさらわれ、地獄谷で赤子を産み落したあと偶然清吉と再会し、いま二人は食い詰め者の夫婦となっています。白蓮と家の者はとんだ来客に驚きますが、白蓮が快く出した百両には極楽寺の封印が、それを見て清吉は三千両を出せとすごみます。なんと優しく心の広い白蓮は大泥棒の大寺庄兵衛で、極楽寺から三千両を盗んだ張本人でした。しかしこの家の下男は詮議のため忍び込んだ役人で、追手が迫り三人は逃げてゆきます。
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