花街模様薊色縫~十六夜清心 サトモヨウアザミノイロヌイ~イザヨイセイシン

作品の概要

執筆者 / 金田栄一
演目名 花街模様薊色縫~十六夜清心
作者 河竹黙阿弥
初演 1859(安政6)年2月 江戸・市村座
概要 白浪作者と異名を取る河竹黙阿弥が四代目市川小団次と組んだ趣向あふれる人気世話物。初演時の『小袖曽我薊色縫(こそでそがあざみのいろぬい)』という外題に見られる通り、江戸の春狂言でお決まりとされた「曽我物」の体裁を取って『曽我の対面』の場を入れ込み、主題には当時講談で人気のあった八重垣紋三(もんざ)を中心とする大江家の御家騒動を据えている。しかし今日上演の中心となっているのは安政2年(1855)に世間を騒がせた江戸城御金蔵破りの逸話と、文化2年(1805)に小塚原で処刑された鬼坊主清吉をモデルとした盗賊が活躍する部分で、思いがけぬ展開の連続に興味が尽きない。

江戸城御金蔵破りの藤岡藤十郎にあたる人物をこの作では大寺庄兵衛という大泥棒に仕立て、また上野寛永寺の僧が遊女と起こした心中沙汰の実話に鬼坊主清吉の名も借りて「極楽寺の所化清心 後に鬼薊(おにあざみ)清吉」という主人公を作り上げ大評判を呼んだ。しかし事件を彷彿とさせるため幕府の厳しい介入・添削の末「狂言の筋訳分からず」となり、結局大入のまま上演中止となった。黙阿弥は幕府の禁令が廃された後の明治18年(1885)に御金蔵破り事件を実名実説通りで脚色し、その『四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)』で再び大評判を取った。

江戸時代の作なので幕府をはばかり全体の場面設定は鎌倉とされているが、実はすべて江戸下町のつもりで書かれており、すなわち稲瀬川百本杭は隅田川の両国橋付近、初瀬小路妾宅は浅草、雪の下本宅は日本橋界隈、まさしくそんな雰囲気が漂ってくる各場である。


★トップページ・タイトル写真★
[左から]おさよ(坂東玉三郎)、鬼薊の清吉(片岡仁左衛門)、女房お藤(片岡秀太郎)、白蓮実は大寺正兵衛(市川左團次) 平成14年3月歌舞伎座
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公演データ