もちどうぐ 持ち道具

登場人物が直接手に持ったり、身に着けているものを「持ち道具」または「持ち物」という。印籠(いんろう)や莨入(たばこいれ)といった小さい装身具、鎧や甲胄、刀剣などの武具類、烏帽子・冠といった被り物は、衣裳や鬘と同じように、俳優が役になりきるための助けとなる。武士なら刀や扇子など、芸者なら扇子や団扇など、持っている小道具によって登場人物の位や立場、人物の性格が一目でわかるのが歌舞伎の表現なのだ。
『仮名手本忠臣蔵』七段目で、一階の座敷で由良之助が顔世御前からの密書を読む場面で、二階からお軽が手鏡を使って手紙を覗き見る。実際には、このような状態で手紙の内容を読むことはできないだろうが、それをありそうに見せてしまうのも歌舞伎の面白さのひとつだろう。(橋本弘毅)

【写真】
おかるが由良之助の手紙を覗き見る様子、懐紙と内側の手鏡が持ち道具
『仮名手本忠臣蔵』七段目 遊女おかる(坂東玉三郎) 平成25年12月歌舞伎座