電気がなかった時代、陽が落ちて暗くなると、行灯や雪洞(ぼんぼり)、灯籠(とうろう)、提灯などの照明器具だけが頼りだった。行灯(行燈とも)は屋内で使われる据え置き型のもので、囲いの中にある火皿と呼ばれる小皿に入れた油につけた芯に火をつけて使う。主に店舗や商家で使われる軒先などに吊るす掛け行灯や、小型のものを総称する雪洞も行灯の一種。寺院や庭先などに立てる灯籠も同じしくみで、油を注いでまわる坊主を油坊主などという。提灯は携帯して使うのが主で、中に蝋燭を立てて火をつけた。捕物の場面で棒に付けて高々と掲げられる高張提灯(たかばりちょうちん)もこの一種。安全上の理由から、現在の劇場では電気式になっている。
火の明かりは、現代の感覚では弱く暗く感じるが、江戸時代以前には他には月明かりぐらいしかないのだから、自前で明かりをともすものとして、欠かせない重要な道具だった。火をつけるには、火打石と付け木が使われる。暗闇の場面でカチッ、カチッと火打石を打ち付ける音がして、少し間があって舞台上が明るくなる演出がある。明かりを灯すのにも手間がかかったということだ。(橋本弘毅)
【写真上】
三千歳が療養している大口屋寮の行灯
『天衣紛上野初花』[左から]大口抱三千蔵(中村時蔵)、片岡直次郎(尾上菊五郎) 平成22年11月新橋演舞場
【写真下】
提灯を持って白井権八に刀を確認させる幡随院長兵衛
『御存鈴ヶ森』幡随院長兵衛(松本幸四郎) 平成25年6月歌舞伎座
火の明かりは、現代の感覚では弱く暗く感じるが、江戸時代以前には他には月明かりぐらいしかないのだから、自前で明かりをともすものとして、欠かせない重要な道具だった。火をつけるには、火打石と付け木が使われる。暗闇の場面でカチッ、カチッと火打石を打ち付ける音がして、少し間があって舞台上が明るくなる演出がある。明かりを灯すのにも手間がかかったということだ。(橋本弘毅)
【写真上】
三千歳が療養している大口屋寮の行灯
『天衣紛上野初花』[左から]大口抱三千蔵(中村時蔵)、片岡直次郎(尾上菊五郎) 平成22年11月新橋演舞場
【写真下】
提灯を持って白井権八に刀を確認させる幡随院長兵衛
『御存鈴ヶ森』幡随院長兵衛(松本幸四郎) 平成25年6月歌舞伎座