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みくらいあらそいのせかい 御位争いの世界

「御位争い」とは皇位継承争いのことです。「御位争いの世界」の代表的な芝居が『倭仮名在原系図(やまとがなありわらけいず)』で、「伊勢物語の世界」に属する芝居でもあります。争いの当事者は文徳(もんとく)天皇の第一皇子維喬(これたか)親王と、第四皇子惟仁(これひと)親王。惟喬の母は紀名虎(きのなとら)の娘で、惟仁は藤原良房(ふじわらのよしふさ)娘でした。文徳天皇は聡明な惟喬を愛しましたが、政界の実力者良房の意向を無視できず、生後3ヶ月の惟仁を皇太子にします。のちに源氏の祖の清和天皇となります。一方、『平家物語』名虎の章には、皇位決定のための競馬や、名虎と良房の相撲勝負、両皇子の護持僧による激しい祈祷争いなどが伝えられています。芝居ではこれらの説話を脚色し、惟喬・名虎を悪、惟仁を善と設定しました。
近松門左衛門作の『井筒業平河内通(いづつなりひらかわちがよい)』には惟喬が名虎の骸骨を祀り、招魂する場面があります。『在原系図』の惟喬は皇位への野望を抱きますが、最後はそれを捨てて出家します。『競伊勢物語(はでくらべいせものがたり)』でも、出家して寂しく暮らす惟喬親王を在原業平が訪ねる場面があります。また、紀有常と彼の不遇時代に温かい交流を持った老婆小よし(こよし)との再会。小よしの娘で実は有常の娘信夫(しのぶ)と恋人豆四郎(まめしろう)が、惟仁の姉井筒姫と恋人業平の身替りになる悲劇が中心です。井筒姫という名は能の名作『井筒』(主人公は紀の有常の娘で在原業平の恋人)からきています。(安冨順)

【写真】
『倭仮名在原系図』蘭平物狂 [左から]女房おりく実は音人妻明石(坂東新悟)、在原行平(片岡愛之助) 平成29年12月歌舞伎座
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