ちどりのこうろ 千鳥の香炉

香炉は香を焚く小さな器。『楼門五三桐(さんもんごさんのきり)』の南禅寺楼門での「絶景かな」のセリフで名高い大盗賊石川五右衛門が、聚楽第(じゅらくだい)の太閤秀吉の寝所へ忍び込んで盗もうとしたのが「千鳥の香炉」である。五右衛門がまさに忍び寄らんとしたときに、この香炉が鳴り出して五右衛門は捕らえられ、煮えたぎる油で釜煎りにされて処刑されたという。『けいせい浜真砂(はまのまさご)』『戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)』などにも出てくる。「千鳥の香炉」は実在の名品で、のちに家康の手に渡ったため、現在は名古屋の徳川美術館にあり、ネット上でも画像を見ることができるのでぜひ確かめてほしい。
歌舞伎に出る香炉は、このほかに『加賀見山再岩藤』の「金鶏の香炉」、『絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)』の「霊亀の香炉」、『謎帯一寸徳兵衛(なぞのおびちょっととくべえ)』の「浮き牡丹の香炉」などがある。(前川文子)