こきゅう 胡弓

胡弓はわが国で唯一の擦弦楽器で、基本構造はヴァイオリンと同じです。見た目は三味線に似ていますがもっと小さく、胴を膝の上に乗せて棹を垂直に立て、弓毛を弦に当てて、楽器の方を左右にまわして演奏します。弓毛はヴァイオリンと同じ馬の尻尾を束ねたものです。『壇浦兜軍記~阿古屋琴責』で秩父庄司重忠が阿古屋に「それ、胡弓擦れ、胡弓擦れ」と命じるように、「弾く」といわず「擦る」と言っていたようです。歌舞伎では「縁切り」「愛想尽かし」の場面に欠かすことができない重要な楽器です。『伊勢音頭恋寝刃』で遊女お紺が、愛する福岡貢のためと思って、心ならずも大勢の前で貢に縁切りを言う場面で、胡弓入りの合方が演奏されます。そのほか『籠釣瓶花街酔醒』の縁切りなども、擦弦楽器ならではの途切れず震えるように滑らかに持続する高音の旋律が、悲劇のヒロインのむせび泣く内心を表すのです。(浅原恒男)

【写真】
『壇浦兜軍記』遊君阿古屋(坂東玉三郎) 平成27年10月歌舞伎座