その名の通り「しゃべる」芸ですが、今日上演される演目の中では近松門左衛門作の『嫗山姥(こもちやまんば)』に登場する傾城上がりの女性八重桐が、廓勤めをしていた頃の恋愛話を弁舌さわやかに語って聞かせるくだりがその典型といわれます。この手法の原点は同じ作者による『傾城仏の原(けいせいほとけのはら)』で、主人公の梅永文蔵が非常に長い身の上話を聞かせたところにあるといわれます。これは作者の才知以上に、それを演じた初代坂田藤十郎のせりふ術の鮮やかさによるところが大きいと思われます。また『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』の女房おとくという役も八重桐のしゃべりの系統を引いた役のひとつで、口の重い亭主に代わりさわやかな弁舌を聞かせます。女性は慎ましく控えめでいるのがよしとされた時代に、思うままにしゃべり散らす女方の芸は観客の度肝を抜き、女性の観客は胸のすく気がしたことでしょう。(金田栄一)
【写真】
『八重桐廓噺~嫗山姥 』荻野屋八重桐(中村時蔵) 平成24年10月御園座
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『八重桐廓噺~嫗山姥 』荻野屋八重桐(中村時蔵) 平成24年10月御園座