主役級の人物が舞台から引っ込む際に何か特徴的なせりふやしぐさを見せ、その後に滑稽な人物が出てきてそれとそっくりなせりふや動きで笑わせ、客席を和ませるといった場面がありますが、この演出法を「おうむ」と呼び、つまり「鸚鵡(おうむ)返し」と同様の意味合いです。『法界坊』では、法界坊のせりふを口まねで鸚鵡返しする幼い丁稚や、桜餅の手かごを駕籠に見立てた道具屋市兵衛のおうむの演技などが客席を沸かせます。『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』寺子屋の寺入りの場面では、松王の女房千代に小太郎が追いすがる場面のあと、下男三助と涎くり与太郎がそっくりそのままにせりふと動きを真似して、笑いを誘います。緊迫した舞台の中で観客もここで一息つき、風が通り抜けたように気分を一新させるといった工夫のひとつでしょう。(金田栄一)
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『菅原伝授手習鑑』寺子屋 [左から]下男三助(松本錦吾)、涎くり与太郎(中村種之助) 平成24年9月新橋演舞場
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『菅原伝授手習鑑』寺子屋 [左から]下男三助(松本錦吾)、涎くり与太郎(中村種之助) 平成24年9月新橋演舞場