すてぜりふ 捨てぜりふ

台本には書かれていないで、その場の雰囲気で役者が臨機応変アドリブ的にいうせりふのこと。転じて、道化方や敵役、あるいは立役が去り際にひとこと言い残す負け惜しみのせりふのことも「捨てぜりふ」と言います。『御所五郎蔵』の「晦日に月の出る里も、闇があるから憶えていろ」や『河内山』の幕切れの「馬鹿め」などです。
ごく短い捨てぜりふで、例えば祭の門前あるいは江戸下町の店先など、場面の味わいが深まったりもします。江戸時代には身分や職業によって言葉遣いが違いましたから、捨てぜりふのひと言は些細なようでいて、実は役者の技量がものをいいます。本来歌舞伎は役者本意なのでこういったことを受け入れる下地があり、捨てぜりふとして加えられたものが、やがて型として定着してゆくといった例も多くあります。(金田栄一)

【写真】
『曽我綉俠御所染~御所五郎蔵』[左から]御所五郎蔵(市川染五郎)、花形屋吾助(松本錦吾) 平成26年9月歌舞伎座