男に殺された女が怨霊となって、逃げんとする男を引き戻すのが連理引きです。玄宗皇帝の楊貴妃への深い愛をうたった『長恨歌』にある「天にあれば比翼の鳥、地にあれば連理の枝」の連理からきたのか、二代目實川延若の芸談には「櫺子(れんじ)引き」とあり、語源は定かでありません。不幸な死をとげた女の怨念や妄執のおそろしさを表現したもので、舞台に水辺や柳が多く使われるところからも、産女(うぶめ)などの民間伝承に根ざした演出だと思われます。『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)~かさね』では、色悪の与右衛門が自分の子を身ごもった累(かさね)を殺し、折から降り出した雨をよける糸立て(筵)をかぶっていっさんに花道を駆け込んで姿を消します。すると黒御簾の「ドロドロ」になり、ネトリという陰気な笛の音とともに舞台上手の土橋の上に累の亡霊が浮かび上がります。彼女がか細い右手を伸ばし、見えない糸をたぐり寄せるよう掴んで引くと、逃げたはずの与右衛門がもがきながら花道から引き戻されてきます。糸立てを捨てて逃げると襟首を、さらに逃げると髷を掴まれたかのように引き戻され、舞台中央でクルクルと回され(錐揉みという)、亡霊を見上げる与右衛門の「ハテ恐ろしい」のせりふでチョンと柝の頭、「執念じゃなぁ」で幕になります。『東海道四谷怪談』『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)~法界坊』などでも、連理引きの場面があります。(浅原恒男)
【写真上】
『色彩間苅豆』[左から]与右衛門(中村橋之助)、腰元かさね(中村福助) 平成25年8月歌舞伎座
【写真下】
『隅田川続俤』法界坊 道具屋甚三(二代目尾上松緑) 昭和38年2月歌舞伎座
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『色彩間苅豆』[左から]与右衛門(中村橋之助)、腰元かさね(中村福助) 平成25年8月歌舞伎座
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『隅田川続俤』法界坊 道具屋甚三(二代目尾上松緑) 昭和38年2月歌舞伎座