ひきぬき 引き抜き[衣裳]

引き抜きは、観客の眼前で一瞬にして衣裳を変化させる仕掛けです。
引き抜きにもいろいろ種類があるのですが、よくみられるのは「かぶせ」と呼ばれるしかけです。衣裳の上に別の衣裳をかぶせるように重ねておいて、舞台上でかぶせた衣裳を瞬時に取り去ります。舞踊でよく行われ、『京鹿子娘道成寺』では、主役の白拍子花子の衣裳が引き抜きによってどんどん変化していきます。
仕掛けのタネは、とてもシンプル。衣裳の袖や裾などを太い糸で荒く縫っておき、舞台上で後見(こうけん)がタイミングよく糸を抜いていくのです。この糸は、きれいにすっと抜けなくては流れをさまたげてしまいますから、縫う荒さなどを後見と衣裳の担当者が相談し調整しています。息を合わせた動きが必要な後見は、演者の弟子がつとめます。(田村民子)

歌舞伎の演技>演出特殊な演出>引き抜き[演技・演出] もご参照ください。

【写真】
『京鹿子娘道成寺』白拍子花子(中村勘九郎) 平成7年10月歌舞伎座