きぜわ 生世話

歌舞伎演目の世話物の中でも、特に下層社会の人物や生活をより写実に描いた作品、あるいは人間の性根や悪性をリアルに描いた作品を「生世話物」といい、そのリアルな演技やせりふ・演出なども生世話と呼ばれます。この「生」とは生粋あるいは生々しいといった意味と考えられます。生世話物の代表作といえば四世鶴屋南北の『東海道四谷怪談』がまず挙げられます。文化文政期という、江戸時代の中でもひときわ退廃期といわれた世相を背景に、色悪と呼ばれる伊右衛門の悪事、お岩をはじめ様々な人々の救いのない悲劇などが赤裸々に描かれています。(金田栄一)

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『於染久松色読販』[左から]鬼門の喜兵衛(市川染五郎)、土手のお六(中村福助) 平成21年5月新橋演舞場