歌舞伎には「縁切物(えんきりもの)」と呼ばれる演目群があります。相思相愛であるはずの男女(女性の多くは遊女や芸者)ですが、ある日突然女性の方から愛想を尽かし、縁切の言葉を男に投げつけます。実は決して真意ではなく男性の窮地を救うあるいは望みを叶えるため、心ならずも見せる表向きの愛想尽かしですが、その事情を見抜けない男性が逆上して残忍な殺しに走るといった流れが典型です。主な演目には『五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)』『伊勢音頭恋寝刃』『御所五郎蔵』などがあります。また『籠釣瓶花街酔醒』『盟三五大切』などは偽りでなく、本当の愛想尽かしです。愛想尽かしの場面での悪態のせりふ、またその屈辱に耐えながら応えるやりとりに見どころ聞きどころが多く、殺し場も誤解から別人を殺したり、無関係の大勢を刃にかけるといった具合に幕切れまで様々な展開が繰り広げられます。(金田栄一)
【写真】
『江戸育お祭佐七』[左から]芸者小糸(中村時蔵)、お祭佐七(尾上菊五郎) 平成20年3月歌舞伎座
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『江戸育お祭佐七』[左から]芸者小糸(中村時蔵)、お祭佐七(尾上菊五郎) 平成20年3月歌舞伎座