わごと 和事

柔らかみを身上とする役どころで、元禄期の初代坂田藤十郎によって上方和事が形成され、伝統的に上方の芸ともいえますが、初代中村七三郎による江戸和事の系譜もあります。上方の「傾城買狂言」で描かれる「やつし」は優美で鷹揚な若旦那が零落してみすぼらしく身をやつした姿で、和事師の典型ともいえる役柄です。『廓文章~吉田屋』の伊左衛門が典型的です。江戸和事の役では『曽我対面』の曽我十郎が代表的なところで、また『助六』という演目も、團十郎家の荒事の中に和事の要素を入れ込んだとされ、ここに登場する白酒売実は曽我十郎も和事で演じられます。(金田栄一)

【写真】
『心中天網島』紙屋治兵衛(坂田藤十郎) 平成21年10月歌舞伎座