くにくずし 国崩し

敵役の中でもとりわけ大物で広くいえば実悪の中にも入りますが、一国一城を揺るがし乗っ取りをたくらむといったお家騒動の首謀者の役柄をこう呼びます。敵役とはいえ眼力などの凄みや立派さが求められ、芝居の上でもしどころが多いので概ね座頭(ざがしら)格や主役級の俳優が勤めます。代表的な役には『祇園祭礼信仰記』の松永大膳、『新薄雪物語』の秋月大膳、『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の仁木弾正(にっきだんじょう)などがあり、この「大膳」「弾正」といった役名もまさしくこの役柄の典型です。鬘は髪が長く垂れ下がった「王子」、あるいは燕が羽を広げたように横へ張り出した「燕手(えんで)」が主に用いられます。(金田栄一)

【写真】
『祇園祭礼信仰記』金閣寺 松永大膳久秀(松本幸四郎) 平成28年3月歌舞伎座