もとは「きほい」と表記し、「競い」とも書きました。競うような激しい勢いや、先を争う言葉に「勢い込む」「意気込む」「勇み立つ」「気負う」「負けまいと勇む」「張り合う」があります。そうした気風(江戸弁で「気っ風」という)の人のことを「勢い肌」というようになり、略して「勢い」とも言ったのです。勇み肌、鉄火肌と同じ。歌舞伎では『盲長屋梅加賀鳶』『め組の喧嘩』などに登場する鳶職人や火消しのように、危険を顧みず命を賭して火の中、水の中に平気で飛び込んでいくような勇気ある男の役を指します。江戸吉原の太夫の「張り」と「意気地」や、深川や柳島の芸者の「鉄火」に通じる江戸の美意識です。(浅原恒男)
【写真】
『盲長屋梅加賀鳶』加賀鳶天神町梅吉(尾上菊五郎) 平成24年1月新橋演舞場
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『盲長屋梅加賀鳶』加賀鳶天神町梅吉(尾上菊五郎) 平成24年1月新橋演舞場