舞台全体を覆うように吊り下げられる青い幕を「浅葱幕」と呼びます。浅葱色というのは本来ネギの一種の浅葱(あさつき)に由来するやや緑がかった色ですが、芝居で使われる浅葱色は極めて淡い水色です。この色は空や空気の色あるいは空間を表現しているといわれ、浅葱幕が使われる場面は日中の屋外というのが基本ですが、その効果的な演出のため例外もあります。まず定式幕が引かれて開幕しますが、舞台全体がこの浅葱幕によって隠されていることがあります。そしてチョンと柝が打たれるのをキッカケに、浅葱幕がパラリと落とされ、豪華な舞台面が一瞬にして現れます。この手法を「振り落し」と呼びます。また逆に立廻りの途中などで浅葱幕が上から一瞬で下りてきて舞台面が隠されるのを「振りかぶせ」といい、しばし後に再び振り落とされて次の場面が一気に現れます。これらは道具転換をも演出の一環とし、視覚的に観客を楽しませる歌舞伎ならではの手法です。スポーツやイベントの開始を告げる「幕が切って落とされました」という言葉の語源もこれです。(金田栄一)
【写真】
浅葱幕
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浅葱幕