鎌倉三代記 カマクラサンダイキ

観劇+(プラス)

執筆者 / 小宮暁子

三姫

歌舞伎の姫君のなかでベストスリーに選ばれた時姫。『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』の八重垣姫、『祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)』の雪姫と並ぶ大役で、三人合わせて「三姫」と呼ぶ。赤姫と呼ばれる赤い振袖の典型的な衣裳に、花櫛をさしたたおやかな姫君が「北条時政討ってみしょう」と抜いた刀を手にキッパリ決まるのは、見所のひとつ。ここでは赤く豪華な衣裳が恋に燃える高貴の姫の激しい情熱を表している。

時姫の複雑な魅力ここに注目

現在ではほとんど上演されないが、幕開きに、姫姿のまま姉さん被り片襷で豆腐を買って帰ってくるところや、米をとぐ仕草など、かわった趣向の活き活きした姿をみせた。気品と情熱と世話女房の可愛さを合わせもった複雑な魅力がある役。姑の長門が時姫の槍を受けて死ぬ場面は歌舞伎では上演されず、姫の一途さと高綱の変貌に焦点があたる。人形浄瑠璃の原作では、この後時姫は父時政のもとに戻るが父を討ち果たすことはできずに自害、三浦之助も討ち死。

時代背景=世界

徳川家のことを取り上げるのが憚られる江戸時代には、時代背景を過去に移しかえた。歌舞伎では題材とする時代背景のことを「世界」と呼び、この作品は鎌倉時代の世界として描いている。時姫は実は豊臣秀頼に嫁いだ千姫、三浦之助は木村重盛、佐々木高綱とは真田幸村、北条時政とは徳川家康だと当時の見物は暗黙の了解で見物していた。三浦之助と時姫が想い合うところが史実とは違っている。

「盛綱陣屋」につづく物語

佐々木高綱のモデル真田幸村には、七人の影武者がいたと言われる。『近江源氏先陣館』の「盛綱陣屋」では、兄の盛綱が高綱の偽首を実検する。『鎌倉三代記』は、それに続く物語になっており、盛綱の陣屋に偽首を届けさせた高綱本人は、入れ墨を入れられた偽者藤三郎になりすましていたことがわかる。藤三郎は、家康の命を受けて千姫を助け出した坂崎出羽守をモデルにしている。原作は全九段でこの「絹川村」は七段目となる。

口うつし

戦場からもどって気を失っている三浦之助に時姫が薬を飲ませる場面は、袖で隠して口うつしのようにする型と、持っている扇の房に薬を浸して飲ませる型がある。悲壮な場面で、姫の大胆な恋心が際立つ。

女形の心がけ=名香ここに注目

三浦之助から兜を受け取る時、焚きしめてある名香の香りをかいだ時姫が三浦之助討死の覚悟を知るのも一つの心がけとして言い伝えられている――と、名著『女形の事』に六代目尾上梅幸は記している。

地獄見得ここに注目

歌舞伎の演出上の手法のひとつに、劇の進行中、一時動きを停止してポーズを決めることがある。印象を強める効果をねらったもので、その仕科を見得(みえ)という。藤三郎が二度目に井戸から高綱として登場し、藤三郎と入替わった次第を述べるなかで「地獄の上の一足飛び」のセリフで両手を妖怪のように曲げ舌を出すところは地獄見得とよばれる。地獄の陰惨さを体現しているといわれている。