妹背山婦女庭訓 イモセヤマオンナテイキン

観劇+(プラス)

執筆者 / 飯塚美砂

妹背ここに注目

妹背(いもせ)は、愛し合う男女、夫婦のことを指す古い言葉で、妹が女で、背が男。妹背山は、男女の対に見える山のことで、妹山と背山を合わせて妹背山と呼ぶ。夫婦岩が大小で寄り添う二つの岩であるのと同じだ。奈良地方の吉野川をはさんだ妹背山が本作の題材となっている。

古代史に名高い登場人物たちここに注目

上代から中古の歴史題材を扱った作品を「王代物(おうだいもの)」と呼ぶが、本作品はその代表的演目。蘇我入鹿は実在の人物で、大化の改新で天智帝の腹心藤原鎌足らに殺されている。この作品では入鹿は天皇になり替わろうとする逆賊として描かれ、公家悪(くげあく)の扮装である。母親が鹿の生血を飲んで生まれたため特別な能力が具わっているのだが、疑着(ぎちゃく)の相の女の生き血を注いだ爪黒(つまぐろ)鹿の角笛の音を聞くと勢力が衰えるという弱点がある。鎌足の息子淡海も実在の人物。

采女の絹掛柳(きぬかけやなぎ)の伝説

奈良の興福寺の塔の姿を映す猿沢の池には、一人の采女(うねめ=天皇の身の回りの世話をする女官)が天皇の寵を得られないことを嘆いて投身したという伝説がある。池のほとりには、衣をかけたという絹掛柳が今も植えられおり采女を祀る采女社がある。

鹿を殺せば石子詰め

春日野の鹿は神獣であり、殺したものは石子詰めの生き埋めの刑に処せられたという。 歌舞伎で上演されることはまれだが、三幕目「芝六住家」(しばろくすみか)では、入鹿誅伐(ちゅうばつ)に必要な爪黒の鹿を殺したため、猟師芝六の子が石子詰めにされそうになる。

三輪伝説ここに注目

活玉依毘売(いくたまよりびめ)のもとに夜ごと通ってくる男があった。その素性を明かさないので毘売(ひめ)は男の衣の裾に糸を付けておき、翌日その糸を追っていった。すると三輪神社についたので、相手が大物主(おおものぬし)神とわかったという。