江戸の美男の代表、男伊達の助六は、花の吉原で大いにもてるがあちこちで喧嘩を売る暴れん坊。その恋人の花魁(おいらん)揚巻も、豪華な衣裳に身を飾り、強い相手に臆することなく言いたいことを言いまくる…。華やかな吉原を舞台に、次々と個性豊かな登場人物が現れるさまはまるでカーニバルのパレードを見るよう。
まず幕開きに裃姿の口上役が出て「河東節(かとうぶし)御連中の皆々様、なにとぞお始め下されましょう」の挨拶で開幕が告げられると、御簾内では「ハォーッ」という合の手に続いて華やかな三味線の音にあわせて浄瑠璃の演奏になる。さぁ、エンターテインメントの始まりだ。
茶屋廻りの金棒の音がゆったりと響く江戸吉原の大見世「三浦屋」の格子先。咲き誇る満開の桜をも欺く美しい若手花魁たちが新造をつれて居並び、いま吉原で全盛の花魁揚巻(あげまき)の道中を待ち受けている。そこへ大提灯を先頭に、大勢の新造や禿、遣り手たちを従えた揚巻の一行がゆったりとあらわれる。揚巻は酔っていると見えて、舟に揺られるように八文字を踏んでくる。
床几に落ち着いた揚巻のもとへ、恋人の助六(すけろく)の母から手紙が届けられる。それを読んで感慨深げな揚巻。そこへ今度は妹分の花魁白玉が道中してくる。ともにやってくるのは髭の意休(ひげのいきゅう)と呼ばれるお大尽(だいじん)。吉原一の人気花魁揚巻にご執心。 なりは立派だがこの意休、どうも評判はよろしくない。無粋にも揚巻の前で恋人助六の悪口を言い始める。恋しい助六にケチをつけられ揚巻はオカンムリ。意休に向かい悪態を次々述べ立てる。気の優しい白玉がとりなして、意休を残して花魁二人は店のうちに入る。
尺八の音が聞こえてくる。花道へ傘をさし下駄の音を響かせて勢いよく駈け出してきたのは噂の助六。黒の着付に紫の鉢巻、水際立った男ぶりである。格子先の花魁衆はじめ女たちは全員、我先に吸付莨(すいつけたばこ)を差出し大歓待。意休はないがしろにされておもしろくない。助六はそんな意休に「近頃、この吉原の大きな蛇がでるとよ。毎晩まいばん、女郎にふられるを、恥とも思わず、通いつめる執着の深ぇ蛇だ。」と、逆なでするように絡んでいく。
そこへ女郎衆に総スカンを食い、カンカンに怒ったくわんぺら門兵衛が出てくる。通りかかったうどん屋福山のかつぎ(出前持ち)が突きあたったものだからますますいきり立ち、かつぎを斬ると言い出す。かつぎも江戸っ子、斬るなら斬れと啖呵を切ると、助六がその喧嘩を買って出前のうどんを門兵衛にぶちかける。騒ぎのさなかに、奴の朝顔仙平(あさがおせんぺい)も顔を出す。助六は意休一党に向かって「…花川戸の助六とも、また揚巻の助六ともいう若ぇ者間近く寄って面像拝み、奉れェー」と、派手に名乗りを上げる。
暴れる助六を残して皆逃げてしまったが、一人残っていたのは優男の白酒売りだ。助六が鉢巻をむしってみれば、なんと兄の十郎。喧嘩好きの弟をたしなめに来たのだが、弟から「喧嘩は源氏の宝刀友切丸を探すため」と聞くと、一緒に探すと言い出す。助六は兄に喧嘩の仕方を教授する羽目になる。さっそく通行の侍や通人に「股ァくぐれぇ」といやがらせ。これも相手の刀を見る方便なのだ。国侍も通人もやむなく、それぞれ個性的な股くぐりをみせる。 そこへ客を送る揚巻の声が聞こえてくる。助六が出てきた客の胸ぐらをつかんでみれば、母の満江。助六の身を案じる母は喧嘩ができないようにと、破れやすい紙の着物を与え、兄と帰っていった。
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