観劇+(プラス)
「伊達騒動」と『伽羅先代萩』
史実では、仙台伊達家の伊達綱宗が遊興三昧のため幕府から隠居を命じられ、わずか2歳の亀千代が跡目相続、そのため大叔父の伊達宗勝や家老職の原田甲斐などが実権を握りお家騒動へと発展します。仁木弾正はこの原田甲斐がモデルとなっています。
「伽羅(きゃら)」というのは香りの良い高価な銘木ですが、綱宗がこれで作った下駄をはいて廓通いをしたという巷説が伝えられているところから伽羅を「めいぼく」と読ませ、「先代」と「萩」はいずれも「仙台」を指して『伽羅先代萩』という外題が出来上がっています。
この演目は伊達家のお話を足利家に置き換え、場所も鎌倉になっていますが、舞台に登場する衣裳や御殿の襖(ふすま)などに伊達家の紋所である「竹に雀」が使われています。こういった虚実混在も歌舞伎にはよく見受けられます。
丁寧に演じられる「飯炊(ままた)き」ここに注目
「御殿」の場の前半は「飯炊き」と呼ばれ、空腹に耐える幼い二人のために政岡が茶釜を使い茶道のお点前に則ってご飯を炊きます。そのためこの役を演じる俳優の茶道の心得も試されますので、俳優にとって日頃の習練はやはり大切です。近年は上演時間の関係でこの部分が省略されることもありますが、幼いながら武士としての心得を守る二人の姿や政岡の鶴千代への忠義心、千松への情愛など様々なものが細かく描き出されますので、全体の中でも重要な場面です。
仁木弾正と五代目幸四郎
仁木弾正は五代目松本幸四郎が特に当たり役とし、今日演じられるこの役も五代目の型が踏襲されています。また五代目幸四郎は左の眉の上にホクロがありましたので、今も仁木弾正を演じる俳優は眉にホクロを描くというのが習いになっています。また弾正が着る長裃も熨斗目模様に幸四郎家の四つ花菱の紋が付けられます。
八汐と栄御前ここに注目
八汐は仁木弾正の妹で典型的な敵役ですが、やはり重要な役のひとつです。女性の役とはいえ女方ではなく主に立役の俳優が演じ、千松を「これでもか」となぶり殺しにするところは客席に少なからず衝撃を与えます。その場面で栄御前は扇をかざして顔を隠しますが、これは残酷な場面から目をそらしているのではなく扇の陰から政岡の様子をじっと見つめ、顔色一つ変えなかったことで政岡も自分たちの一味と勘違いする・・・という凝った筋立てになっています。