梅雨小袖昔八丈〜髪結新三 ツユコソデムカシハチジョウ〜カミユイシンザ

ほととぎす、初鰹、梅雨空・・・・・・。
季節感あふれる江戸下町の風物詩に
浮かび上る小町娘、小悪党、博徒の影。

主人公は家々を廻って髪を結う廻り髪結いの新三。優男の手代を手玉にとり、町で評判の材木屋の娘をかどわかし、土地の親分の出鼻をくじいて悦にいった新三だったが、数枚上手の家主(いえぬし)の強談判に手もなく降参。面目を潰された親分は脇差を手に新三を待ちぶせる。

あらすじ

執筆者 / 小宮暁子

聟とり

材木商白子屋は主人(あるじ)殁後、経営難にひんしている。後家お常は一人娘お熊に持参金付の聟を迎えて、店の立直しをはかろうとする。しかし評判の小町娘お熊は、店の手代忠七と恋仲だった。母に懇願されていったんは婿取りを承知したものの、忠七と駆け落ちをしようと思い詰める。事情を知った廻り髪結の新三は、お熊を連れて逃げるよう忠七をそそのかす。

【左】[左から]白子屋手代忠七(中村時蔵)、白子屋娘お熊(中村梅枝) 平成23年11月新橋演舞場
【右】髪結新三(中村勘三郎) 平成24年5月平成中村座
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相合傘の五分と五分

コロリとだまされた忠七はお熊を深川の新三の家に先に逃してやる。折からの雨に相合傘に納まって永代橋まで来かかった新三と忠七。新三は態度を一変させ忠七をののしり、傘で打ちすえて、お熊はおれの女房だと言って立ち去る。だまされたと悟った忠七だが、新三の家がどこにあるのかも見当もつかない。思い余って身投げしようとするところを神田界隈を縄張にする親分・弥太五郎源七に助けられる。

【左】[左から]髪結新三(尾上菊五郎)、白子屋手代忠七(中村時蔵) 平成23年11月新橋演舞場
【右】[左から]白子屋手代忠七(坂東三津五郎)、弥太五郎源七(中村富十郎) 平成17年5月歌舞伎座
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長屋ぐらし

深川富吉町の新三の長屋。お熊をなぐさんだ新三は、朝湯帰りに高価な初鰹を買って機嫌も景気も上々だ。そこへ白子屋出入りの車力の善八が、顔役の弥太五郎源七を案内してくる。新三は散々に毒づき、お熊の身代(みのしろ)に源七が出した十両を叩き返す。カッとなったが格下相手におとなげないと、源七は虫を殺して帰ってゆく。

【左】[左から]合長屋権兵衛(松本幸太郎)、肴売新吉(松本錦弥) 平成26年4月歌舞伎座
【右】[左から]車力善八(坂東秀調)、髪結新三(坂東三津五郎)、下剃勝奴(中村勘九郎)、弥太五郎源七(中村橋之助) 平成25年8月歌舞伎座
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家主(いえぬし)

善八は困って長屋の家主長兵衛の所に泣きつく。長兵衛は入墨者の新三を住まわせてやっていることを恩に着せて叱りつけ、白子屋からの身代金三十両で得心させ、お熊を帰宅させる。その上「半分もらってゆく」と謎をかけた鰹と身代金、両方とも半分せしめてしまう。

【左】[左から]家主女房おかく(市村萬次郎)、家主長兵衛(坂東彌十郎) 平成26年4月歌舞伎座
【右】[左から]下剃勝奴(市川染五郎)、髪結新三(中村勘三郎)、家主長兵衛(坂東三津五郎) 平成17年5月歌舞伎座
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地獄づくし

それから数ヵ月、新三はいっぱしの悪党として売出し、一方、顔をつぶされた弥太五郎源七は落目で羽振りも悪くなっている。地獄に縁ある閻魔堂橋で新三を待伏せした源七は、遺恨をはらそうと新三に一太刀あびせる。ここでは橋の名・閻魔に因んだ「地獄づくし」のせりふが新三と源七の間でかわされる。

[左から]弥太五郎源七(中村橋之助)、髪結新三(坂東三津五郎) 平成25年8月歌舞伎座
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