江戸から京に上った菊地半九郎は、まだ初心な遊女お染と愛し合うが、ふとした言い争いから親友の弟を殺してしまう。切腹しようとする半九郎は、お染の純真な想いにほだされ、二人で死出の道行に出る。
祗園の若松屋の遊女お染は、初めて店に出た日に、江戸から来た旗本・菊地半九郎の相手に選ばれた。半九郎は生真面目な青年で、お染の境遇を気の毒に思い、自分以外の客をとらせないよう揚げ詰めにしている。正月も近いある夜、お染は料亭花菱の座敷でこっそり父親と会い、半九郎と揃いで誂えた晴れ小袖を受け取りながら半九郎への感謝を語り合う。しかし父が帰った後に現れた半九郎から、急に将軍が江戸に帰ることとなり、自分も近日中に京を去ることになったと知らされる。
そこに半九郎の朋輩の坂田市之助が、馴染の遊女お花らを連れてやって来て、酒宴となった。半九郎は突然市之助に、家宝の刀を二百両で売りたいと相談を持ちかける。驚く市之助に対し、半九郎は「京の鶯を買いたいのじゃ」と答える。市之助が「その鶯を江戸に連れて行くのか」と問うと、「いや、籠から放してやればよいのじゃ。おおかた古巣へ戻るであろう」と言い放つ。しかし世慣れた市之助は、武士の魂を売ってまですべきことではないと一笑に付す。
そんな中へ、市之助の弟・坂田源三郎が駆け込んで来た。帰参の準備を弟に任せきりにして遊び歩いている兄を連れ戻しに来たのだ。が、市之助は適当にあしらって逃げてしまう。源三郎は、兄の放蕩は朋輩の半九郎のせいだと思い、半九郎に怒りをぶつける。はじめは相手にしなかった半九郎だったが、酔っているのも手伝って次第に激高し、源三郎に「侍の面汚し」とまで言われて怒りが頂点に達し、ついに二人は刀をとって座敷を飛び出す。
水の面に月の光がきらめく四条河原の暗がりに、刃の相打つ音が聞こえる。お染は後を追い、人通りのなくなった四条河原で半九郎を見つけたが、源三郎は息絶えていた。半九郎は私闘の末に親友の弟を斬殺してしまったので、潔くこの場で切腹するという。お染は、半九郎がいなければ自分は死んだも同然の身、ならば清い身体のまま一緒に死なせてほしいと訴える。武士の面目からいったんは心中を躊躇した半九郎も、純粋な心を打ち明けたお染が心底愛おしくなり、承知する。美しい満月の下、二人は正月のために用意した晴れ小袖を死に装束の代わりに身につけて、手に手を取って鳥辺山へと歩みを進めて行く。
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