旗本奴のボス水野十郎左衛門の酒宴に招かれた、町奴の親分幡随院長兵衛。
自分を殺すための罠と知りながら、妻子を置いてただ一人水野の屋敷に向かう長兵衛の胸中は…。痛快な中にも物哀しさが漂う「男の中の男」の物語。
江戸の芝居小屋・村山座は今日も大入り。ところが物語が佳境に差し掛かった時、酔った中間(ちゅうげん)が舞台に暴れ込み、芝居が中断してしまう。舞台番が何とか収めようとするが、今度は侍が舞台に上がり込んで難癖をつける。周りの人たちも相手が侍では下手に手出しができず、おろおろするばかり。
そのとき客席から舞台へ現れたのが、町奴(まちやっこ)の親分で男伊達として名高い幡随院長兵衛。騒動を収めるようとするが、相手は旗本奴(はたもとやっこ)の白柄組(しらつかぐみ)の一員で、日頃から対立している町奴の親分を見て逆上し斬りかかる。長兵衛はこれを逆に叩きのめし、満員の見物から大喝采を浴びる。
その一部始終を、白柄組の頭目水野十郎左衛門(みずのじゅうろうざえもん)が桟敷席から見ていた。長兵衛の鮮やかな手並を見て思わず呼び止める水野と、それに応える長兵衛。そこに長兵衛の子分たちも駆けつけ、一触即発となるが、芝居の最中なので互い手を引く。
村山座での騒動からしばらく後、浅草花川戸の長兵衛の家へ水野から使者が来た。旗本奴と町奴を和解させるために酒宴を開くので、長兵衛に来てほしいという招きだった。長兵衛はこれをあっさり受諾する。
子分たちは、長兵衛を殺すための罠だろうから行かないでほしいと訴えるが、長兵衛は男を立ててきた自分がここで逃げたら後世までの恥になり、江戸中の兄弟分や子分たちにも顔向けできなくなってしまう。ならばここで立派に死んでみせようと、頑として聞き入れない。女房お時に手伝わせて身支度を整え、息子の長松にはたとえ貧乏でも堅気の暮らしをさせてほしいとお時に言い残す。後のことは兄弟分として頼りにする唐犬権兵衛に託し、長松が止めるのを振り切って、ただひとり水野の屋敷へ向かう。
水野は長兵衛の来訪を歓迎し、友人で白柄組の一員の近藤登之助(こんどうのぼりのすけ)らも合流して酒宴が始まる。その最中、長兵衛が元は武士だという噂話が出て、剣術の手並みをぜひ見せてほしいとせがまれる。長兵衛は水野の家来たちや近藤と立会い、みごと打ち負かす。そして酒宴が再開されるが、今度はこぼれた酒が長兵衛の着物を濡らしてしまう。水野は着物が乾くまで自慢の湯殿(風呂)でくつろぐよう長兵衛に勧める。
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