近江源氏先陣館~盛綱陣屋 オウミゲンジセンジンヤカタ モリツナジンヤ

戦場で心ならずも敵同士となった兄と弟。兄は弟を案じ、弟は子を犠牲にしてまでも再起を図り、母は兄弟の板ばさみに苦悶する。
戦のために引き裂かれる家族の悲劇。

戦場で敵同士となった盛綱と高綱の兄弟。盛綱は戦場で討ち取られた高綱の首を見て、贋物だと気付く。が、高綱の子小四郎が「父上」と呼びかけて切腹するのを見てその真意を悟り、命を捨てる覚悟で弟の計略に乗る。

あらすじ

執筆者 / 寺田詩麻

佐々木兄弟の苦衷

頼朝の嫡男源頼家と、幕府の執権北条時政が権力を争っている。佐々木盛綱は時政側につき、盛綱の弟で智将として知られた佐々木高綱は頼家側につく。戦のさなかに高綱の子小四郎が盛綱の子小三郎に捕らえられた。

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和田兵衛(わだびょうえ)の来訪

そこへ高綱側の使者として、侍大将の和田兵衛がやって来て、小四郎を返すよう要求する。盛綱が「小四郎は時政公の囚人として預かっているので、自分の一存では返せない」と答えると、和田兵衛は、それなら石山の本陣にいる時政に会って交渉すると、ゆうゆうと出て行く。

和田兵衛秀盛(中村吉右衛門) 平成25年4月歌舞伎座
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盛綱から母への頼み

盛綱は陣屋にいる母の微妙に向かい、小四郎に切腹させてほしいと頼む。微妙は驚く。盛綱は、「時政は小四郎をおとりにして高綱をおびき寄せるつもりだろう。自分が弟の迷いを絶つために小四郎を殺せば、主君の命令に背くことになる。あなたが小四郎に切腹させてくれれば、高綱を救うことになる」と説く。母の膝に手を置き懇願する盛綱に、武家の定めと観念した微妙は、小四郎を切腹させることを承知する。

[左から]佐々木三郎兵衛盛綱(片岡仁左衛門)、盛綱母微妙(片岡秀太郎) 平成22年10月新橋演舞場
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矢文の応酬

陣屋の紅葉の木に矢文が射こまれる。盛綱の妻の早瀬が文を開くと、「名にしおはば逢坂山のさねかづら、人に知られで来るよしもがな」と書かれていた。小四郎に陣屋を抜け出せと伝えているのだと読み取った早瀬は、時節を待てと返事を書いた矢文を射返す。

高綱妻篝火(中村魁春) 平成22年10月新橋演舞場
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小四郎の命乞いと注進

母の矢文を知った小四郎に、微妙は涙ながらに切腹するようさとす。小四郎は逃げ回り、ひそんできた篝火のそばへ行こうとする。微妙はそれをさえぎって刀を抜くが、どうしても孫を切ることができず、泣く泣く奥へ連れて入る。 小四郎を追う篝火と早瀬が争ううち、注進が戦場の高綱の働きを伝える。さらに二度目の注進が高綱を討ち取ったと告げる。

【左】[左から]高綱一子小四郎(松本金太郎)、盛綱母微妙(中村東蔵) 平成25年4月歌舞伎座
【中央1】[左から]盛綱妻早瀬(片岡孝太郎)、高綱妻篝火(中村魁春) 平成22年10月新橋演舞場
【中央2】信楽太郎(中村橋之助) 平成25年4月歌舞伎座
【右】伊吹藤太(市川段四郎) 平成17年3月歌舞伎座
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時政の登場、そして首実検

北条時政が陣屋を訪れる。その目的は、討ち取った高綱の首を兄の盛綱に見せて、本物かどうか確かめることであった。しかし、盛綱が首桶を開けると、小四郎は走り寄り「父上」と呼びかけて、腹を切る。驚いた盛綱が首を見ると首は偽物だった。小四郎は時政に本物の首と信じ込ませるために切腹したのだと盛綱は悟る。幼い小四郎の死を無駄にしないためにも、盛綱はあえて「高綱の首に間違いない」と言い切る。時政はそれを聞いて喜び、櫃(ひつ)に入れた鎧をほうびとして与え、帰って行く。

【左】北條時政(片岡我當) 平成22年10月新橋演舞場
【右】[上から]北條時政(中村歌六)、佐々木三郎兵衛盛綱(中村吉右衛門) 平成20年9月歌舞伎座
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心を動かされた盛綱、瀕死の甥を褒める

盛綱は隠れていた篝火を呼び出し、瀕死の小四郎と対面させる。そして「時政へ味方する心は変わらないが、弟と甥の才知に心動かされ嘘をついたと真情を吐露し、小四郎の健気さをほめる。篝火、早瀬、微妙の嘆く中で小四郎が息絶える。主君を裏切った責任を取るため盛綱が腹を切ろうとすると、和田兵衛が現れて盛綱に鉄砲を向ける。が、撃ったのは鎧櫃に潜む榛谷(はんがえ)十郎だった。和田兵衛は「いま腹を切っては高綱の計略がむだになる。義理を立てるなら、高綱が再び挙兵したとき腹を切れ」とすすめ、源氏の白旗を奪ってゆうゆうと出て行く。

【左】[左から]佐々木三郎兵衛盛綱(中村勘三郎)、高綱妻篝火(中村福助)、高綱一子小四郎高重(中村児太郎)、盛綱妻早瀬(中村魁春)、盛綱母微妙(中村芝翫) 平成17年3月歌舞伎座
【右】[左から]和田兵衛秀盛(中村吉右衛門)、佐々木三郎兵衛盛綱(片岡仁左衛門)、高綱妻篝火(中村時蔵)、高綱一子小四郎(松本金太郎)、盛綱妻早瀬(中村芝雀)、盛綱母微妙(中村東蔵) 平成25年4月歌舞伎座
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