ご主人の浮気心と、それに頭を悩ます奥さま…これは、古今東西、変わることがないらしい。時代が移っても、また言葉の通じぬ外国でも、爆笑のうちに受け入れられる人気演目。
さるお屋敷の旦那様山蔭右京のもとに、旅先で懇意になった遊女花子(はなご)が逢いたいと文をよこした。右京は飛び立つ思いだが、ここにひとつ、大きな問題があった。右京には情の深すぎる玉の井という奥方がいるのだ。奥方は旦那様を熱愛するあまり、片時もそばを離れようとしない。そこで、右京は一計を案じ、近頃夢見が悪いので各地の仏閣に詣でて修行がしたいと言い出した。しかし奥方は一年も二年もかかる修行の旅などとんでもないと断固反対。侍女の千枝(ちえだ)と小枝(さえだ)の提案で、やっとお屋敷内の持仏堂で一晩だけ籠って座禅するだけならいいということで、ようやく一晩だけ、奥方からの自由を得る。
わずか一晩だが、奥方の目から逃れて花子に逢えるなら、と右京は有頂天。しかし油断はならない。右京は腹心の太郎冠者を呼び、持仏堂に自分の身替りになって坐っているように命じる。座禅中は女人禁制だから絶対のぞくなと言ってあるが、万一のぞきに来られてもばれないように、太郎冠者に座禅衾(ざぜんぶすま)をすっぽりかぶせ、右京はウキウキと花子のもとへ出かけていく。座禅衾は夜通し座禅するときに使う夜具だ。
身替りに座らされている太郎冠者は気が気でない。案の定、お茶とお菓子を用意して奥方が様子を見にやってきた。無理やり化けの皮ならぬ衾を剥がされて正体がばれた太郎冠者は平謝り。怒り心頭の奥方は太郎冠者に代わって座禅衾をかぶり、右京を待ち受けることにする。
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