身替座禅 ミガワリザゼン

鬼より怖い山の神、それでも逢いたい花子さん。
悩める右京が思いついたことは…。

ご主人の浮気心と、それに頭を悩ます奥さま…これは、古今東西、変わることがないらしい。時代が移っても、また言葉の通じぬ外国でも、爆笑のうちに受け入れられる人気演目。

あらすじ

執筆者 / 飯塚美砂

花子さんからの手紙

さるお屋敷の旦那様山蔭右京のもとに、旅先で懇意になった遊女花子(はなご)が逢いたいと文をよこした。右京は飛び立つ思いだが、ここにひとつ、大きな問題があった。右京には情の深すぎる玉の井という奥方がいるのだ。奥方は旦那様を熱愛するあまり、片時もそばを離れようとしない。そこで、右京は一計を案じ、近頃夢見が悪いので各地の仏閣に詣でて修行がしたいと言い出した。しかし奥方は一年も二年もかかる修行の旅などとんでもないと断固反対。侍女の千枝(ちえだ)と小枝(さえだ)の提案で、やっとお屋敷内の持仏堂で一晩だけ籠って座禅するだけならいいということで、ようやく一晩だけ、奥方からの自由を得る。

[左から]侍女小枝(尾上右近)、山蔭右京(尾上菊五郎)、侍女千枝(中村壱太郎)、奥方玉の井(中村吉右衛門) 平成26年3月歌舞伎座
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替え玉で行こう!

わずか一晩だが、奥方の目から逃れて花子に逢えるなら、と右京は有頂天。しかし油断はならない。右京は腹心の太郎冠者を呼び、持仏堂に自分の身替りになって坐っているように命じる。座禅中は女人禁制だから絶対のぞくなと言ってあるが、万一のぞきに来られてもばれないように、太郎冠者に座禅衾(ざぜんぶすま)をすっぽりかぶせ、右京はウキウキと花子のもとへ出かけていく。座禅衾は夜通し座禅するときに使う夜具だ。

[左から]山蔭右京(中村勘三郎)、太郎冠者(市川染五郎) 平成21年12月歌舞伎座
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身がわり交代!

身替りに座らされている太郎冠者は気が気でない。案の定、お茶とお菓子を用意して奥方が様子を見にやってきた。無理やり化けの皮ならぬ衾を剥がされて正体がばれた太郎冠者は平謝り。怒り心頭の奥方は太郎冠者に代わって座禅衾をかぶり、右京を待ち受けることにする。

【左】[左から]太郎冠者(中村又五郎)、奥方玉の井(中村吉右衛門) 平成26年3月歌舞伎座
【右】奥方玉の井(坂東三津五郎) 平成21年12月歌舞伎座
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うっかり惚気(のろけ)もわる口も

そうとは露とも知らぬ右京、明け方になってほろ酔い気分でご帰館。座っているのは太郎冠者だと思い込んだまま、花子との楽しい一夜をあれもこれもとジェスチャア入りでたっぷりのろけまくり、揚句に花子に聞かせた奥方の悪口まで口にする。さて、右京が衾を取ってみると…。

【左】山蔭右京(尾上菊五郎) 平成26年3月歌舞伎座
【右】[左から]山蔭右京(尾上菊五郎)、奥方玉の井(中村吉右衛門) 平成26年3月歌舞伎座
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