美女の甘い言葉には、どんな英雄も修行を積んだ高僧もころりとだまされるのは古今東西同じこと。鳴神上人と美女との、おおらかでエロチックなやりとりの面白さと、だまされたと知った時の上人の怒りの荒れ。歌舞伎十八番の中でも、古風な趣をもつ荒事の代表作。
雨が降らず、国中が日照りに苦しんでいる。鳴神上人が、帝が約束が守らなかったことを恨み、竜神を滝壺に封じ込めてしまったからだ。その上人の北山の庵めざして、一人の妙齢の美女が登って来る。彼女は亡き夫の想いの残った衣を濯ぎたいが水がないので、滝の水を求めてここまで来たと言う。夫とのなれそめ、川を渡って彼のもとへ通う様子を、裾をまくり白い足もあらわに語って見せる女の姿に、上人も思わず身を乗り出す。
ふと疑いを持った鳴神上人に、女は一転して、出家し弟子になりたいと言い出す。上人が弟子の白雲坊、黒雲坊を使いにだし二人きりになると、彼女は急に具合が悪くなったふり。驚いた上人は介抱するうちに、彼女の胸に触れてしまう。初めて知る女人の肌の柔らかさに、次第に自分が押さえられなくなる上人。女は夫婦の盃と言って上人を酔いつぶし、傍らの滝に張られた注連縄(しめなわ)を切る。
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