「五大力(ごだいりき)」の文字は恋のおまじない。女は源五兵衛への愛の誓いに腕にその文字を彫ってみせた。そうして源五兵衛から百両の金を巻き上げると、実は亭主だという三五郎があらわれる。深く恨んだ源五兵衛は五人もの人間を斬り殺し、逃げた女の家をたずねると、腕の文字は「三五大切」と彫り直されていた。逆上した男は女の首を切り落とし、懐に入れて夜道を帰っていく。
夜も更けた佃の沖、涼しげに舟を浮かべているのは深川芸者の小万と船頭の三五郎で、実はこの二人は夫婦。三五郎は父親から勘当されていますが、その父から百両の金の工面を頼まれ、そのため女房に芸者勤めをさせています。小万には薩摩源五兵衛という客が大層ご執心で、それを幸いこれまでにも金の無心をしていますが、三五郎はさらに取ろうとけしかけます。そうこうするうち月が出て辺りが明るくなり、もう一艘の舟が近づいてくるのが見えますが、浮かび上がった顔はまさしく、その源五兵衛でした。
小万に入れあげ家財道具も売り払うほどの源五兵衛ですが、元は塩冶家の侍で実の名は不破数右衛門。盗賊に御用金を盗まれたため浪人となり、その後塩冶家は主君判官の刃傷事件でお家断絶、源五兵衛は金を工面して、主君の仇討ちの仲間に加わろうとしています。浪宅へやってきた小万の腕には「五大力」の刺青があり源五兵衛を一途に思う証拠といいますが、折からそこへ源五兵衛の伯父の富森助右衛門が仇討ちのためにと百両を届けに来ます。そして百両という話を聞き込んだ三五郎は言葉巧みに源五兵衛を誘い出します。
三五郎と小万は仲間と組んで小万の身請け話をでっち上げ、源五兵衛から百両の金を巻き上げようと企みます。仇討ちのための大事な金ゆえ源五兵衛は懸命にこらえますが、小万が刀を取って死のうとし、ついに源五兵衛は百両を投げ出します。仇討ちをあきらめ、それでも愛する女の命を救い女房とすることですべて納得した源五兵衛ですが、その小万を連れて帰ろうとすると三五郎が声を掛け、「小万には亭主がある」といいます。これまでの何もかもが、源五兵衛から金を取るための芝居であったことにようやく気付きました。
まんまと百両を手にした一同が集まり、気を良くした三五郎は小万の「五大力」の彫り物に「三」の字を加え、さらに細工をして「三五大切」と変え悦に入っています。ようやく一同が寝静まったころ、窓を破って源五兵衛が押し入り、寝ている者たちを次々と襲って斬り殺します。斬られたのは五人、しかしなかに三五郎と小万はいませんでした。
危ういところを逃れて、四谷鬼横町の長屋へ引っ越してきた三五郎と小万、家主は偶然にも小万の兄弥助でした。そこへお岩稲荷勧進の僧了心となった三五郎の父徳右衛門がやってきて、三五郎は手に入れた百両を手渡します。徳右衛門は不破数右衛門に仕える身で、主人が仇討ちに加われるよう百両が必要だったのでした。父が去ったあと、源五兵衛がやって来ますが刀も抜かず酒を置いてしずかに去ります。しかし、その酒を呑んだ弥助は苦しみ毒酒だったことが知れます。用心のため三五郎は樽に隠れて父徳右衛門の寺へと運ばれます。再び源五兵衛が現れ、恐怖におびえる小万の腕の彫り物が「三五大切」と変わったのを見て激しく憤り、小万とその幼子を冷たい目でにらみ、小万の手に持たせた刀で幼子を惨殺し、小万の首を斬り落とします。
源五兵衛は小万の首を抱え隠れ住む愛染院の庵室に帰ってきて、にくい女の首を見つめながら食事をするという異様な姿さえ見せます。そして源五兵衛は、もはや仇討ちに加わることは出来ないと了心に打ち明け自害しようとします。そのとき部屋の隅の樽が割れると、なかから現われた三五郎が包丁を腹に突き立てていました。三五郎は樽のなかで悟ったのです。父親の主人のために必要だった百両を、その主人から奪い取っていたのだと・・・仇討ちのために互いに素性を隠していたための、無残な結末でした。外には雪がふりはじめ、現われた塩冶浪士たちと連れだって、源五兵衛は元の不破数右衛門として仇討ちの一行に加わるのでした。
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