遊女お初と醤油問屋で働く徳兵衛は愛し合うが、徳兵衛にはお初を請け出す金はなかった。その上親友に騙されて無実の罪を着せられる。到底この世では結ばれない二人。お初は徳兵衛に愛の証しの決断を迫る・・・。元禄時代の大坂で実際に起きた心中事件をもとに、近松門左衛門が創作した名作が、昭和歌舞伎の舞台へよみがえった。
お初「会うに会われぬその時は、この世ばかりの約束か。 三途の川は堰(せ)く人も、堰かれる人もござんすまい」 堂島新地の天満屋遊女お初は平野屋の手代徳兵衛と深く愛し合う仲だった。ところが、徳兵衛に、店の主人で叔父である久右衛門から、持参金付きの縁談が持ち上がる。徳兵衛の実家の継母は、徳兵衛に知らせずにこれを承諾し、持参金銀二貫目(約240万円)を受け取っていた。徳兵衛がこれを断ると、お初のせいだと怒った久右衛門は、持参金の返済を迫り大坂から追い出すと息巻く。生玉神社で、お初にめぐりあった徳兵衛は、もう会う事が出来ないと嘆くが、お初は徳兵衛に二人の仲はこの世だけではない強い絆だと励ます。 しかも、徳兵衛はやっとの思いで継母から取り戻した二貫目を、金のやりくりに困る親友の油屋九平次に少しの間貸していたが、期日が来ても返済されていない。ちょうど来合わせた九平次に向かい、徳兵衛は証文を手に返済を求める。九平次は「証文に押された印判は先日紛失した物だ」と言い立て、徳兵衛こそ証文を偽造した犯罪者だと騒ぎ、大勢の前で徳兵衛を散々に痛めつける。詐欺の濡れ衣まで着せられた徳兵衛は、商人の面目を失って死を覚悟する。
お初「この上は徳さまも死なねばならぬ品なるが、死ぬる覚悟がききたい…」 生玉で別れたままの徳兵衛の身を案じるお初は、天満屋の門口に立つ傷だらけの徳兵衛を見つけ、ひそかに店の縁の下に忍ばせる。そこへ酔った九平次がやってきて、徳兵衛の悪口を散々並べる。怒りに震える徳兵衛をお初は必死で足で押しとどめ、九平次に向かって「徳さまは死なねばならぬ」と言いながら、縁の下の徳兵衛に足で心中の覚悟を問いかける。徳兵衛はお初の足を刃物のように喉に当て同意を示す。 夜も更けて皆が寝静まった後、お初と徳兵衛はが天満屋を抜け出した。そこへ油屋から知らせが来て、印判を偽った九平次の悪だくみが露見し徳兵衛の無実が明らかになる。徳兵衛を心配して天満屋に来ていた久右衛門も実は二人を添わせる心だったと明かし、門口に立ち「死ぬなよ」と叫ぶ。すでに時は遅かった。
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