色と欲の法界坊が今日も街を闊歩する。お家騒動に首を突っ込んでお宝をかすめ取るわ、きれいな娘に言い寄るばかりか、誘拐も殺人もへっちゃら。ついに正義の人に殺されるが、両性具有のお化けになって、恋人たちを惑わせる。お家騒動にこの最強キャラクターがからむと物語は大崩壊。ブラックなドタバタ劇だが、思い通りに生きる主人公を見れば、なぜか気分がすっきり。
江戸の行楽地向島(むこうじま)の料理屋大七(だいしち)。悪人に一味する代官牛島大蔵が町人たちに、京の公家吉田家が朝廷から預かった重宝の「鯉魚(りぎょ)の一軸」を紛失して家名断絶し、嫡子・松若がお家再興のため一軸の行方を求めて東国へ下ったので、見つけ出したら褒美をとらせると申し渡しています。そこに来かかったのは永楽屋という道具屋の後家おらくと娘のおくみ、手代要助です。吉田家に恩のあるおらくは、松若を手代要助にしてかくまい、一軸を所持する大阪屋源右衛門に娘のおくみを嫁がせる代わりに、百両で買い取る約束をしています。しかしおくみは要助に心を寄せていて、この縁談に乗り気ではありません。そこにやってきたのは汚い身なりで釣鐘建立の資金集めに歩く法界坊。法界坊は色と金に目のない破戒坊主です。
そこに松若の許嫁である野分姫が都からはるばる江戸へとやって来て、大七の座敷でようやく要助実は松若に巡りあいます。それを見たおくみが嫉妬するところへ法界坊がやってきます。法界坊はおくみにぞっこん惚れていて、追い回して付け文(ラブレターを渡すこと)し、お家騒動もかぎつけて金にしようと企んでいます。さらに店の番頭長九郎もおくみに横恋慕しています。
源右衛門が携えてきた重宝の一軸は要助の手に入りますが、嫉妬したおくみが要助に恋文を手渡し、二人は痴話げんかになってしまいます。そのすきに法界坊はおくみの恋文を拾い、一軸を釣鐘の絵図とすり替えます。さらに源右衛門がやってきて、それを部屋にあった掛け軸とすり替えました。つまり源右衛門は売ると約束した一軸をそっと取り戻したつもり。源右衛門は憎い要助を間男だと訴えましたが、そこへ現れたのが道具屋の甚三。実はもと吉田家に仕えていた人物で、間男の証拠だと法界坊が差し出したおくみの恋文を、法界坊がおくみに宛てたあさましい恋文とすり替えて皆に見せ、要助の窮地を救い、法界坊をこらしめます。
夜更けの向島白鬚神社の鳥居前。番頭長九郎は駕籠(かご)を用意しておくみをさらいますが、それを見ていた法界坊が今度はおくみを奪って葛籠(つづら)の中に押し込めます。そこへ源右衛門が要助を引き立ててきて、さんざんに打ち据えた揚句に目の前で一軸を引き裂きます。要助はついに我慢がならず源右衛門を斬り捨て、腹を切ろうとしますが、通りかかった甚三に止められます。しかも源右衛門が引き裂いたのはすり替えられたにせものとわかります。そして葛籠の中のおくみが助け出され、甚三の助けで二人は連れ立ってその場を去ります。
ところは隅田川の三囲(みめぐり)土手。突然の落雷でおくみと野分姫と要助は気を失ってしまいます。それを見つけた法界坊は要助を縛り上げ、まず野分姫を口説きにかかります。しかし意に沿わないと知ると、要助から邪魔な野分姫を殺してくれと頼まれたと嘘を言い、姫を殺してしまいます。あわれな野分姫は要助を恨んで死にました。そこへ駆けつけた甚三が法界坊と争い、ようやく本物の一軸を手に入れます。法界坊は甚三に斬られ、自分が掘った穴へ落ちて死んでしまいます。要助とおくみは命からがら逃げてゆきます。甚三がそのあとを追おうとすると、恨みを呑んで死んだ野分姫と執念深い法界坊の怨念が亡霊となって、甚三を引き戻すのでした。
揃いの荵(しのぶ)売り姿にやつした要助とおくみが隅田川の渡し場までくると、渡し守のお賤(しづ)が待っていました。その場で、非業の死を遂げた野分姫の供養に形見の袱紗を火にくべると、おくみそっくりの荵売りの女が現われます。お賤はおくみと、おくみそっくりな女に、要助との馴れ初めを語らせて、いずれが本物か見きわめようとしますが、ふたりは互いに男を引き合うばかり。しかし一方のおくみからは法界坊の声がして、野分姫と法界坊の霊が合体した恐ろしい形相の怨霊が現われます。しかしお賤のもつ観世音の尊像の威徳でついに消え失せるのでした。
松竹株式会社、国立国会図書館から許可を受けた写真を掲載しています。
当サイトに掲載されているすべての記事・写真の無断転載を禁じます。
©松竹株式会社 / ©国立国会図書館 / © 歌舞伎 on the web. All Rights Reserved.