摂州合邦辻 セッシュウガッポウガツジ

その恋は真実なのか
うら若き継母は、闇夜にまぎれ、ひたすら義理の息子のあとを追う

高安家のお家騒動阻止のため、義理の息子俊徳丸(しゅんとくまる)に邪恋をしかけ
ついには自らの命をも捨てる玉手御前(たまてごぜん)
継母の一途な真心が俊徳丸を業病から救う奇蹟をおこす。

あらすじ

執筆者 / 小宮暁子

供養の百万遍

合邦道心は、青砥左衛門藤綱という世に知られた鎌倉武士の子だったが、人の讒言によって浪人し、出家して清貧の暮らしをしていた。 その娘お辻は、大名高安家に腰元奉公し、奥方亡きあと後添えにのぞまれ、玉手御前とよばれて出世をしていた。ところが、その玉手御前が義理の息子の俊徳丸に不義をしかけたと聞いた合邦道心夫婦は、玉手が夫高安左衛門に成敗されたと思い込み、近所の人々を頼んで弔いの供養をしていた。

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しんしんたる夜の闇

合邦道心の庵室には、玉手御前の邪恋から逃れた俊徳丸が業病で盲目となり、許嫁(いいなづけ)の浅香姫と一緒にかくまわれていた。そこに俊徳丸のあとを追って玉手御前がたどり着く。屋敷を抜け、闇夜をひたすら徒歩裸足(かちはだし)でやってきたのだ。

【左】玉手御前(尾上梅幸) 平成6年10月国立劇場
【右】[左から]合邦女房おとく(中村東蔵)、合邦道心(中村歌六) 平成27年5月歌舞伎座
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あっちからも惚れて貰う気

老母に家に入れてもらった玉手御前は母の諫めもきかず、髪を剃って出家せよと迫られると、不義を反省するどころか、これからは髪かたちも派手にして、あっちからも惚れて貰う気、とうそぶく有様。俊徳丸を口説き、浅香姫に嫉妬して乱行のかぎりをつくす。はては俊徳丸を業病にしたのも自分のしわざと口走るので、元武士の合邦道心は思い余って娘を手にかける。

[左から]息女浅香姫(尾上右近)、高安奥方玉手御前(尾上菊之助)、高安俊徳丸(中村梅枝) 平成27年5月歌舞伎座
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寅の月寅の日寅の刻生まれ

重傷を負った玉手御前は苦しい息の下から事の顚末を語り出す。側室の子だが年上の次郎丸が、正室の子俊徳丸の暗殺を企てていることを知ったこと。しかし二人とも自分にとっては主君の子なので、両方助ける道として、俊徳丸に毒酒をのませ業病にし、不義を仕掛けてわざと逃したこと。それも寅歳で寅の月、日、刻が揃った生まれの女の肝臓の生血をのませれば業病は全快すると聞き、自分こそ、その条件を具えた女であるとわかったためだったと。

[左から]合邦道心(市村羽左衛門)、高安室玉手御前(尾上梅幸)、合邦女房おとく(尾上多賀之丞)、高安俊徳丸(中村芝翫)、浅香姫(市川門之助) 昭和47年2月歌舞伎座
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鮑貝の杯

その血を飲ませるのは、毒酒を飲ませた時と同じ鮑貝であることから、瀕死の玉手御前は、気丈にも肌身離さず持っていた鮑貝に自らの肝臓から血潮を受けて俊徳丸に与える。すると不思議にも俊徳丸はたちまち元の美しい若殿の姿に立ち戻った。玉手御前は安心して落命する。継母の深い愛情に感謝した俊徳丸は、庵室の跡に月江寺建立を約束する。

[左から]奴入平(坂東巳之助)、合邦道心(中村歌六)、高安奥方玉手御前(尾上菊之助)、合邦女房おとく(中村東蔵)、高安俊徳丸(中村梅枝)、息女浅香姫(尾上右近) 平成27年5月歌舞伎座
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