彦山権現誓助剱~毛谷村 ヒコサンゴンゲンチカイノスケダチ ケヤムラ

豊前国(ぶぜんのくに)の山村に暮らす「気は優しくて力持ち」の好青年の前に、突然、虚無僧すがたの怪力の女が現われた!

長門国(ながとのくに、現在の山口県)の剣術指南役吉岡一味斎が闇討ちにされ、残された妻と二人の娘は仇討のため、あてどない旅に出る。姉娘のお園は女ながらも大力で武芸が得意だったが、妹お菊は仇に返り討ちされてしまった。悲嘆の中で英彦山(ひこさん)の麓の毛谷村にたどり着いたお園は、そこで六助というやさしい若者にめぐり逢う。

あらすじ

執筆者 / 橋本弘毅

亡き母を弔う好青年

豊前国(ぶぜんのくに)英彦山(ひこさん)の麓に暮らす六助は善良な青年。武術に優れていながら仕官せず、小倉藩は彼に勝った者は剣術指南として召し抱えると触れ書を出している。 ある日六助は母の四十九日の墓参に来て、微塵弾正(みじんだんじょう)と名のる浪人と出会う。弾正は明日六助と試合をする相手だが、耳の遠い老女を背負っており、仕官して母に孝行したいので六助にわざと負けてほしいと訴える。快く承諾した六助は、帰り道で幼い男の子を連れた武家の若党が襲われているのを助けたが、若党は幼子を頼むと言い残して息絶えてしまった。六助はその子を家に連れ帰る。

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わざと試合に負けて

梅が咲き、はや鶯の声がきこえる静かな山里の六助の住み家。門口には、目印になるように幼子の着物が干してある。その庭先で弾正との試合が行われ、六助は約束通りわざと負ける。威張る弾正に眉間を傷つけられても笑って激励する六助だった。そこへ旅の老女が休ませてほしいとやって来た。親切に応対する六助に、老女は自分が母親になってやろうと言い出す。訳が分からぬまま奥で休んでもらうと、遊びに行っていた幼子が帰ってきて、母が恋しいと泣くので、六助はやさしく寝かしつける。

[左から]微塵弾正実は京極内匠(市川團蔵)、毛谷村六助(尾上菊五郎) 平成27年2月歌舞伎座
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怪しい虚無僧(こむそう)の正体は

そこに怪しげな虚無僧がやってきた。虚無僧は雲助らに襲われるが、難なく打ち破る。その様子を見ていた六助は、虚無僧が女だと見破る。女は天蓋をとって正体を現し、「家来の敵」と六助に斬りかかってきた。すると幼子が飛び起きて、「おばさま!」とすがりつく。六助は子どもをあやしながら前日からの顛末を語り、名を名のる。それを聞くや、女はそれまでの勇ましさはどこへやら、「わたしゃお前の女房じゃ」と口走り、今度はしおらしく六助の世話をしはじめる。

[左から]毛谷村六助(中村吉右衛門)、一味斎娘お園(中村福助) 平成21年4月歌舞伎座
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師との縁

女は実は吉岡一味斎(よしおかいちみさい)の娘お園であった。一味斎は、かつて六助に剣術の奥義を授けた師匠である。お園は父からいずれ六助と夫婦にすると聞かされていたが、父を京極内匠(きょうごくたくみ)に闇討ちにされて仇討の旅に出たのだった。妹お菊まで内匠に返り討ちにされ、六助が助けた幼子はお菊の子・弥三松(やそまつ)だった。そこへ先ほどの旅の老女が出てきて、一味斎の後室お幸と身分を明かす。師との生前の約束を果たし仇討に参加するため、六助はお幸の仲立ちでお園と祝言を挙げる。

【左】一味斎娘お園(中村時蔵) 平成27年2月歌舞伎座
【右】一味斎後室お幸(中村東蔵) 平成27年2月歌舞伎座
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微塵弾正の正体

そこへ杣(そま、木こり)の斧右衛門が、母が何者かに殺されたので敵を討ってもらいたいと、仲間とやって来る。六助が亡き骸を見ると微塵弾正が母と言っていた老女だった。六助をだますために利用され、口封じに殺されたのだ。さすがの六助も激怒する。さらにお幸やお園の話から、弾正こそが敵の京極内匠なのだと判る。六助たちは遺恨を晴らす身支度をして出立するのだった。

【左】[左から]一味斎娘お園(中村時蔵)、杣斧右衛門(市川左團次)、毛谷村六助(尾上菊五郎)、一味斎後室お幸(中村東蔵) 平成27年2月歌舞伎座
【右】[左から]一味斎娘お園(中村時蔵)、毛谷村六助(中村吉右衛門) 平成16年2月歌舞伎座
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